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執筆者の写真吉田正幸

第3期市町村事業計画の策定で生じる温度差!


 

「供給過剰=定員割れ」や「未就園児対応」の行方は?


 子ども・子育て支援制度の運用が、第3ステージに入ろうとしています。そのポイントは、これまでのような待機児童対策を強く意識したものではなく、むしろ定員割れに陥る施設が増える可能性が高いことへの対応・対策や、「こども誰でも通園制度」に象徴される未就園児家庭への対応を充実・強化することだと考えられます。

 もう一つのポイントは、国のこども大綱を踏まえて、地方版こども計画を策定することが努力義務とされていることから、この地方版こども計画と第3期事業計画をどう関連づけるかということです。市町村によって、こども大綱に関連した子どもの貧困対策に関する計画や子ども・若者計画、あるいは次世代育成支援対策推進法に規定された行動計画に関して、別々の計画として策定しているケースや包括的に総合計画としてまとめているケースなど、計画の組み方が異なっています。

 こうした従来とは異なる新しい課題に対して、基礎自治体である市町村はどのようなビジョンを描き、戦略的な対応を図ることができるのか、その意識や意欲、力量が問われることになります。言い換えると、市町村によって大きな温度差を生じる可能性が高く、それが地域における教育・保育施設の存続や地域子育て支援の拡充にも影響すると見られます。

 まず子ども・子育て支援制度に関して、その実施主体である市町村は、5年を1期とする事業計画を策定し、それを着実に推進することが求められていますが、今年度で第2期計画が終了することから、来年度(令和7年度)から第3期事業計画をスタートさせることになります。

 そのためには、今年度中に事業計画を策定する必要があり、パブリックコメント等を考えると、実質的には今年中に事業計画の案をつくっておくことが求められます。これから取り組もうとする市町村の場合、わずか8か月程度しかないことになります。

 筆者がかかわっている自治体のケースで言えば、先月(3月)に開かれた子ども・子育て会議で子育て家庭に対するアンケート調査結果等の報告が行われ、今年度から事業計画策定に向けた具体的な検討に入ります。スケジュール的には、6月の第1回会議で骨子案を検討、8月の第2回会議で素案を検討、10月の第3回会議で再び素案を検討、1月に素案に基づいたパブリックコメントが行われ、2月の第4回会議で計画を承認するという流れが想定されています。会議の開催回数や開催時期に多様の多少の違いはあっても、多くの市町村はおおむねこのようなスケジュール感で進めていくのではないかと思われます。

 その際、子ども・子育て支援法に基づく市町村事業計画に、子どもの貧困対策に関する計画や子ども・若者計画等を組み込むのかどうか、市町村によって対応が分かれるところです。ある自治体は全ての計画をパッケージとしてまとめて作成し、別の自治体は事業計画とこども計画を別々に作成します。パッケージで対応するところは全て子ども・子育て会議で検討し、別々に対応するところはこども計画策定のための新たな会議体を設置するところもあります。

 ちなみに、動きが速い自治体としては、横浜市が挙げられます。同市は3月27日に開かれた会議で、早くも第3期事業計画の骨子案が提示されています。そこでは、市町村子ども・子育て支援事業計画と市町村行動計画、市町村こども計画、市町村子ども・若者計画をパッケージ的に作成し、子どもの貧困対策に関する計画だけは別立てで作成・対応するという考えが示されています。

 本稿では、同市の骨子案について詳しく取り上げることはしませんが、昨年4月に施行された「こども基本法」や、昨年12月に閣議決定された「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」等を踏まえて、従来の計画にはなかった視点を取り入れた計画策定を目指しているのが特徴です。

 こうした計画を策定する中で、教育・保育の需給バランスの在り方(供給過剰=定員割れへの対応)や、「こども誰でも通園制度」への対応、幼児教育・保育の質の向上、保育人材の確保、多様なニーズへの対応といった重要課題をどう位置づけて、その推進を図っていくのか、それぞれの市町村の見識や力量が問われそうです。

 

*会員ページの「コラム・寄稿文」に「コラム(保育ナビ)」(vol.97|園のICT化対応は大丈夫か?)をアップしています。

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