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執筆者の写真吉田正幸

人口減少に危機感を強める山梨県が本気の対策へ!


 

長崎知事が人口減少・少子化対策に強い意欲


 山梨県は先ごろ開いた9月定例議会で、人口減少危機対策のための基礎調査費約3650万円を補正予算として計上し、県として少子化対策を加速させる方針を明らかにしました。この予算は、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金等を活用して、施策立案の基礎として「出生率上昇を阻害する要因等を調査する」というものです。都道府県レベルで少子化対策の基礎調査にこれだけの予算を計上するのは珍しいと言えそうです。

 また、定例会で所信表明を行った長崎幸太郎知事知事は、人口減少危機対策を喫緊の課題だとして、基礎調査に関して「若者が結婚をためらう理由や希望する子供の数を産まない阻害要因について、経済的観点や住環境など様々な観点から調査する」との考えを示しました。加えて、人口減少問題に継続的に取り組むため「人口減少危機対策本部事務局」を知事政策局内に新設することも明らかにしました。

 長崎知事は、所信表明の中で人口減少・少子化対策に異例とも言える長い演説を行っていて、その危機意識の大きさと同時に対策にかける意気込みの強さがうかがえます。

 そこで、本稿では、あえて所信表明の関連部分を全文掲げておくことにします。

「令和5年9月定例県議会の開会に当たりまして、提出いたしました案件のうち、主なるものにつきまして、その概要を御説明申し上げますとともに、私の所信の一端を申し述べ、議員各位並びに県民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げたいと存じます。

 先ず、人口減少危機対策についてです。

 我が国では、世界に類を見ない急速なペースで進む少子化により人口が加速度的に減少し、これに伴い人口構造も高齢化が加速される事態に立ち至っております。

 加えて、大都市圏と地方における人口移動の不均衡は、地方の過疎化や地域産業の衰退等をもたらす大きな要因となっています。

 本県の人口動態においても、社会増減は2年連続の増加とはなったものの、自然増減については、ひとたび上昇の兆しを見せた合計特殊出生率が再び下降に転じ、総人口は43年ぶりに80万人を下回るなど、まさに危機的な状況となっています。

 人口問題は、個人の選択と密接に関係するものではありますが、令和4年の合計特殊出生率は1.40と、県民希望出生率1.87から大きく乖離しております。

 この背景には、結婚や子どもを望んでも、出会いの少なさや、経済的な不安定さ、子育ての負担感、出産・育児と仕事の両立の難しさなど、様々な要因から「希望が叶えられない」という、県民の社会に対する悲観的な捉え方があります。

 私は、この人口減少という問題は、若い世代、更には、その先の将来世代からの警告であり、声なき抗議の声であると受け止めるべきであろうと考えます。

 敢えて自戒をもって「私たち」というべき、これまでの世代は、こうなると分かっていながら、いつか、またいつかと、眼前の危機に対し、これまでなすべきことをなさず、目先の幸福ばかりを追求し、漫然と従前の取り組みを継続してきてしまいました。

 そのような「私たち」に対し、今まさに命を産み出そうとしている若者、あるいは、これから産声を上げる子どもたちが、声なき声で叫んでいるのです。

 この悲痛な叫びに、今度こそ正面から向き合う、私の強い決意を今ここで改めて表明いたします。

 去る6月には、県民の皆様とこの決意を共有すべく、全国初となる「人口減少危機突破宣言」を行うとともに、7月に開催したトップセミナーでは、市町村・企業・団体の代表者の皆様と「人口減少危機突破共同宣言」を行い、オール山梨の体制構築に向けた基礎的な環境整備を図りました。

 更に、7月末に本県で初めて開催された全国知事会議においては、各知事と様々な議論を交わす中、少子化対策が主要テーマの一つに掲げられ、政府の「こども未来戦略方針」に対する提言の取りまとめや、国と地方が方向性を一にし、総力を挙げて取り組む「山梨宣言」を採択しました。

 この議論をリードし、その先駆たるべき本県において、県民に希望に満ちた選択肢を提示し、人口減少という危機を突破するためには、「『将来世代を含めた県民一人ひとり』が豊かさを実感できるやまなし」の実現に向け、取り組みを加速させなければなりません。

 すなわち、子どもを産み、育てるための生活基盤を強く安心できるものとする「ふるさと強靱化」、全ての人に対して開かれ、若者や子どもたちの可能性を広げる「『開の国』づくり」を目指す施策を充実・強化させ、迅速かつ思い切って実施することこそが、人口減少危機の突破に不可欠であります。

8月には、あらゆる施策を総動員し、それぞれのライフステージにおいて、切れ目のない支援を実現するため、本県における対策の核となる政策パッケージの暫定プランを公表いたしました。

 そのうち、出産・子育て支援については、出生率上昇のための基本的かつ最も重要な施策であり、強力に推進するべく、パッケージの要として取りまとめております。

 このパッケージにおいては、あらゆる県民をして、山梨での暮らしに希望と将来への展望が開かれ、「家庭を持ち子どもを産み育てたい」という希望があまねく叶えられ、生まれてくる全ての子どもたちが夢を諦めず健やかに成長していけるという確信を持てるよう、取り組むべき大きな方向性を3つお示しいたしました。

1つ目の「安心できる生活基盤の整備」は、若い世代の方々が、本県で暮らしていくための基礎条件となる、住環境や雇用環境などの更なる充実を図るものです。

 産業の安定した発展やリスキリング等による賃金の向上、子育て世代の経済的負担の軽減や住環境の整備、安心して働くための「介護待機者ゼロ社会」の実現といった施策を進めて参ります。

2つ目の「キャリアと子育ての両立」は、仕事と生活の調和が取れ、それぞれの人が自分らしく理想の働き方の実現を目指すものです。

 男性の主体的な家事育児参加や、長時間労働の改善などによる働き方改革の推進、子どもを預ける保育施設や保育サービスの拡充、そして未だに残る、「子育ては女性が担い、家計は男性が支える」といったアンコンシャスバイアスの解消を図って参ります。

3つ目の「関係者との連携」は、あらゆるステークホルダーと協働して対策の推進を図るものです。

 人口減少危機対策の取り組みを行う市町村への支援、労働環境改善に向けた関係者との協議、人口減少危機対策関係施策の効果検証などを進めるとともに、県内外の叡智を結集させ、この暫定プランをより良き政策パッケージに成長させて参ります。

 また、この国家的課題そのものへの挑戦に当たっては、国の政策動向との連携が不可欠であり、先月、人口問題の専門家とともに山崎史郎内閣官房参与が来県した際に、本県をフィールドに、各種少子化対策が出生率向上に与える影響、有効性の検証を専門家グループが行っていく方針で一致いたしました。

 先ずは、これまでの施策の効果検証から始め、その結果も踏まえながら、多くの達眼の士や知見を有する機関とも連携し、本県が全国に先駆けて様々な施策を実行し、結果を日本に還元していくなど、まさに挑戦と未来に近い実証フィールドとしての本県の本領を発揮し、国の政策動向と一体となって取り組みを進めて参りたいと考えております。

 さて、人口減少危機対策は、長期的に、困難かつ複雑な社会的課題に取り組むものであり、今後、効果的な施策を立案するためには、先ずは、出生率上昇を阻害する要因等を十分に調査研究し、その上で持続可能な取り組みを実施する必要があります。

 そのため、本県の人口減少危機対策を本格的に確立し実行していくための「初めの一歩」として、先ずもって「人口減少危機対策基礎調査」に要する経費を計上いたします。

 この基礎調査では、若者が結婚をためらう理由や、希望する子どもの数を産まない阻害要因等について、経済的観点や住環境など、様々な観点から調査し、その結果を踏まえ、本県の子育て世代が安心して結婚・子育てを行うことができるようにするための効果的な施策を企画・立案し、これを迅速に本格展開して参ります。

 もちろん、調査結果を待たずとも、すぐに始められる取り組みについては積極的に予算計上しております。

 民間企業と連携し、結婚や子育てに対する漠然とした不安の解消を図るライフデザインの普及や、多様な言語・文化的背景を持つ子どもが安心して過ごすことができる国際保育の環境整備などに取り掛かることとしておりますが、これらの事業は、先ずモデルケースを創出し、これを「種」として、今後速やかに全県への波及や民間での自立展開を図るものであります。

 こういった事業も含め、人口減少危機対策を全庁部局横断的に有機的連携を強力に確保しながら、今後長期にわたって取り組みを継続的に推進していくため、組織体制についても充実を図り、新たに知事直轄の組織として「人口減少危機対策本部事務局」を設置いたします。

 この本部事務局の事務局長には部局長級を専任で充て、人口減少危機対策に係る庁内の施策調整及び進捗管理等を行うとともに、市町村や民間企業との連携窓口としての役割を担って参ります。」

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