これからの保育と少子化対策・少子化対応 ~保育は何にどう貢献すれば持続できるのか~
研究所メルマガvol.40
2025年3月13日

今回のメールマガジンでは、少子化が進行する中で、保育から捉えた少子化対策と少子化対応について考えてみました。
少子化対策には、量的な対策と質的な対策があり、保育には質的な対策で貢献することが重要であり、そのためにも多機能化をはじめとした少子化対応を充実させ、自園・自法人の持続可能性を高めることが求められています。
昨年の出生数は70万人割れがほぼ確実とみられるなど、少子化に歯止めをかけるどころか、むしろ加速している観があります。しかも来年(2026年)は、60年ぶりに丙午(ひのえうま)の年を迎えます。1966年(昭和41年)の丙午ほどではないにしても、さらに出生数を押し下げる可能性があります。
こども未来戦略は、2030年までが少子化トレンドを反転させるラストチャンスだとしていますが、あと5年程度で出生数や出生率が好転するとは考えにくいのが現実です。言い換えると、保育関係者にとっては、楽観的なシナリオを描くのではなく、より現実に即した、かつ少しでも成果の上がるシナリオに基づいた戦略が求められます。
そのためには、まず少子化対策と少子化対応を分けて考える必要があります。このうち少子化対策については、大きく2つのベクトルが考えられます。一つは、「少子化トレンドを反転させる」つまり出生数や出生率を増加させるという考え方です。もう一つは、出生数や出生率が下がっても、それでも成り立つ社会や仕組みを目指すという考え方です。
これは、量的な少子化対策と質的な少子化対策と言い換えてもいいでしょう。量的な少子化対策については、1994年12月に策定されたエンゼルプラン以降、今日に至るまでほぼ5年ごとに大きな少子化対策が講じられてきましたが、結果から言えばことごとく失敗したと言わざるを得ません。
これまでの少子化の経緯や結果を見る限り、量的な少子化対策に象徴される楽観的なシナリオは考えにくく、やはり少子化が一定程度進むという前提に立って、それでもやっていける方策を考えるほうが現実的ではないかと思います。それが質的な少子化対策です。
保育の力で量的な少子化対策に貢献することは困難ですが、質的な少子化対策を目指す場合、そこに保育が貢献できる可能性が見えてきます。子どもの数(未来や地域社会の支え手)を増やすことよりも、子どもの健やかな育ちを保障することによって、未来や地域社会の支え手の支える力を強くすることにこそ、保育は大きく貢献することができるのです。
そのためには、質の高い保育を提供するだけでは不十分で、そのことと同時に家庭や地域社会といった子ども環境がより良くなるような支援をすることが重要です。在園児であるかないかを問わず、保護者の就労の有無や形態を問わず、全ての子ども・子育て家庭を包括的に支援する拠点的な機能が求められます。その新たなチャレンジの一つが、こども誰でも通園制度だと考えられます。
深刻化する少子化対策に質的な面で貢献することができれば、社会から見れば公費を投入しても良いというコンセンサスにつながり、それが保育分野の振興策に結びついていくのです。
一方、少子化の進行を前提とした少子化対応も大切です。人口減少地域においては、乳幼児人口が減り続けていくことを前提に、それでも園運営や法人経営が成り立つ取り組みを強化し、チャレンジし続けることが求められます。
在園児が減って1~3号子どもに対する保育機能が縮小していくわけですから、他の機能でカバーする(あるいは、それ以上に機能拡充を図る)という方策が一つのポイントになります。いわゆる多機能化です。かつての保育所や幼稚園は、施設にお金(保育所運営費、私学助成等)が入る仕組みでしたが、今日では機能にお金がつく仕組みになっています。その最たるものが施設型給付(利用者に対する個人給付の法定代理受領)という新たな仕組みです。
つまり、保育の機能が量的に縮小していけば、給付収入は減っていきます。しかし、給付以外の新たな機能を発揮すれば、その機能に対してお金が入ってきます。これが、多機能化を考える際の一つのポイントです。もちろん、多機能化には、財政面だけでなく(それ以上に)複数の機能が相乗効果を発揮したり、それぞれの機能が相互補完することで、より高度な機能を発揮できるという大きなメリットもあります。
その多機能化も、従来の保育機能の延長線上にあるものから、それを超えた連携・協働・共生による新たな機能まで多岐にわたります。延長保育や休日保育、夜間保育などは、従来の保育機能の延長線上にあるもの、あるいは従来の保育機能を強化するものと言っていいでしょう。
これに対して、放課後児童クラブや児童発達支援・放課後等デイサービス、医療的ケア児のサポート、保育留学などは、従来の保育機能に新たに付加した保育的な機能と言えます。さらに、子ども食堂やクリニックの併設、農業生産法人との連携などは、従来の保育機能を超えた連携・協働・共生レベルの機能と考えられます。
これらの階調的、重層的な機能をどれだけ取り込めて、いかに成果を上げるかが、少子化対応の一つのポイントになります。人口減少地域においては、当然のことながら量的なニーズは減ります。しかし、ニーズの多様性は必ずしも減るわけではありませんし、質的なニーズの重要性は変わりません。このことを念頭に置いて、多角化と多様なニーズとの関係を整理し、自園・自法人の少子化対応方策に結びつけるかが大事な観点になります。
いずれにしても、過去・現在・未来という座標軸を下地に、自園・自法人の所在する地域社会と自園・自法人の役割・機能を重ねて描いてみることによって、いろいろな可能性が見えてくると思います。